研究内容

私の研究室では、省エネルギー半導体材料であるシリコンカーバイド(SiC)単結晶の結晶欠陥の研究を行っています。世の中の多くの物質は、原子が規則正しく並んだ“結晶”からできています。「規則正しく」と書きましたが、実際の結晶には色々と「規則正しく」なっていない部分があります。これが結晶欠陥です。結晶欠陥は、その空間的な拡がりの次元により、点欠陥(0次元)、転位(1次元)、積層欠陥(2次元)と分類され、その最小寸法は概ね原子・分子レベル(nmスケール)の大きさです。結晶欠陥の多くは、その結晶が生成(成長)する際に導入されます。従って、結晶欠陥の研究は結晶成長の研究と密接な関係にあり、私の研究室でもこの二つを常に関連付けて研究を進めています。

世の中でもっとも完成度の高い結晶は、皆さんがお持ちのスマートフォンのマイクロプロセッサやメモリに使用されているシリコン(Si)単結晶と思われますが、このシリコン単結晶にさえ未だ研究対象となる結晶欠陥が存在しています。結晶欠陥の研究はその舞台としてどのような結晶を選ぶかによって、その物理的な興味や研究手法が異なってきますが、私の研究室ではその対象として、近年、産業界で省エネルギー半導体材料として注目が集まっているSiC単結晶(禁制帯幅の大きな半導体材料で、ワイドギャップ半導体と呼ばれます)を取り上げています。

SiC単結晶は非常に頑丈な材料で、半導体の中でも力仕事に適した半導体と言えます。力仕事をする半導体(パワー半導体)は、身近なところではエアコンや電気自動車のインバータ(電気エネルギーの変換を司る装置で、例えば直流を交流に変換したりします)などに使用されています。このようなインバータにSiC単結晶を適用すると、電気を用いて仕事をさせる(例えば自動車を走らせる)際に、熱として無駄にしていたエネルギーを大幅に削減することができます(つまり省エネルギーを実現できます)。

次世代の省エネルギー半導体材料として大きな期待が集まっているSiC単結晶ですが、その結晶中にはまだまだ多くの結晶欠陥が存在しています(多いと言っても、原子数で言えば1億個に1個ぐらいの割合なのですが)。結晶欠陥があると、期待される特性が発現しなかったり、信頼性が得られなかったりします。このように、ミクロな大きさの結晶欠陥がほんの少し存在するだけで、材料のマクロ的な特性が変わってしまうところが結晶欠陥研究の興味深いところであり、工業的に重要な点ではないかと思います。

研究手法としては、光学顕微鏡、電子顕微鏡、そしてプローブ顕微鏡などを用いて欠陥そのものを観察したり、結晶にX線や光を当ててその応答を調べたりしています。また、簡単な半導体デバイスの評価を通して、結晶欠陥を調べることも行っています。

私の研究室では、私の職歴にも関係しているのですが、かなり工業的な出口を意識した研究をおこなっています。より具体的に言うと、上記した結晶欠陥の研究も、最終的には結晶欠陥を制御し、より良質な結晶を作るための知見を蓄積することを目的としています。しかしながら、このような研究分野においても、物理学・化学といった基礎科学の持つ、個別の現象の背後にある一般性あるいは普遍性を記述する(あるいは記述しようとする)、という学問の特徴が大いに活きて、工業的に重要な新しい発見や手法の開発につながっていくものと信じています。

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