研究内容

近年、環境問題やエネルギー問題などから、高性能なエネルギーデバイスの開発が必要不可欠となっています。とりわけ蓄電デバイスは、様々な用途から現代社会の根幹をなすものですが、今なお、各種用途ごとに最適な高性能蓄電材料の開発が求められています。私のグループでは、大容量や急速充電を目的に、分子性物質を用いた新しい二次電池の開発を行ってきました。以下に、これまでの研究成果を紹介します(KGPublicity – YouTube参照。)。(各項目の右上の番号は研究業績中の原著論文の番号)

 

1、多核金属錯体の蓄電機能 — 分子クラスター電池の開発[16], [42], [55],[56]

多核金属錯体(分子クラスター)は、スピントロニクスへの応用から、従来、その単分子磁石的挙動などに注目が集められてきた物質群です。私のグループでは、分子クラスターの酸化還元能に着目し、これらをリチウム二次電池の正極活物質とする分子クラスター電池を提案してきました。このような分子クラスター電池では、図1右のように、分子クラスターの多電子酸化還元による高容量とLi+イオンの自由なアクセスに由来した急速充放電の両方が期待されます。図1左のような代表的な分子クラスターであるMn12クラスター([Mn12O12(RCOO)16(H2O)4], R=CH3, C6H5 etc.)および様々なポリオキソメタレートクラスター([PMo12O40]3-(PMo12)や[P2Mo18O62]6-など)を正極活物質とする分子クラスター電池を作製し、汎用的なリチウムイオン電池よりも大きな電池容量を実現しました。このことは、レドックス活性な分子クラスターが次世代二次電池の有望な活物質になることを示すものです。
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図1

 

2、その場計測法を用いた分子クラスター電池の反応機構解明[24], [35], [42], [55], [58]

では、分子クラスター電池はなぜ大きな容量を示すのでしょうか?私のグループでは、金属錯体の電子状態および局所構造変化を調べる手段であるin situ X線吸収微細構造(XAFS)分析と電気化学計測を組み合わせ(図2左)、Mn12及びPMo12クラスターを正極活物質とする分子クラスター電池の反応機構解明をおこないました。充放電過程における可逆な吸収端エネルギーの変化から(図2右)、Mn12は約8電子、PMo12は約24電子の酸化還元を起こすことを明らかにし、これが大きな電池容量の主因であることを明らかにしました。なお、放電状態では、通常の電気化学では得ることができない[Mn12]8-や[PMo12]27-といった超還元種が正極中で生成していることを初めて見出し、固体電気化学が新しい化学種の合成に有用な手段であることも示しています。

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図2

3、分子クラスター-ナノカーボン複合体の創製と応用[36], [44], [49], [51]

分子クラスターを単層カーボンナノチューブ(SWNT)などのナノカーボンとナノ複合化させることにより、活物質である分子クラスター1つ1つからのスムーズかつ効率的な電子移動とLi+イオンの素早い保持、拡散が予想され(図3(a))、さらに大きな蓄電量と急速充電が期待されます。これまでに、分子クラスターの一つPMo12とSWNTからなるナノ複合体を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)およびXAFS分析より1分子~数分子単位でPMo12がSWNT上に吸着していることを明らかにしました(図3(b))。このSWNT-PMo12複合体の蓄電機能を検討したところ、ナノ複合化前より急速充電および高容量化が観測され、ナノ複合化が錯体一分子の機能を効率的に引き出すうえで一般的な方法論となりうることを見出しています。また、SWNTの代わりにグラフェンを用いることで、さらに大きな容量を実現できています。

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図3

このように、新しい蓄電材料の開発研究を物質創成と機能解明の両面から行っており、最近では、ポルフィリン類縁体であるノルコロール[53]や金属有機構造体(MOF)[60]を用いることで特徴的な電池特性を見出しています。今後は、電池の各部材(電極など)のファブリケーション技術の最適化もおこなうことで、新しい電池の実用化を目指したいと思っています。さらに、希少元素や毒性の高い元素の利用を避けることで、資源および環境問題も解決できるでしょう。

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